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サブウェイ特急/矢沢永吉

矢沢永吉については、あまりよく知らない。とはいえ、僕は完全に矢沢の世代である。中学校3年生で「リブヤング」のキャロルのデビューも見たし、雑誌GOROの付録の音楽新聞みたいなやつで特集された、矢沢のソロデビュー(アイラブユーOK)の記事も持っていた。確か高校2年生だったと思う。大学の駐車場には「E.YAZAWA」のステッカーを貼っていたスカイラインを毎日目にしていたし、糸井重里の「成り上がり」も一応読んだ。

けど、僕は矢沢には興味がなかった。僕らの世代のメジャーでロックコンサートで盛り上がると言えば、矢沢永吉とRCサクセションと、ショーケンだったような気がする。けど僕は矢沢には興味がなかった。指示していたファン層とは同世代だが興味がなかった。

たぶん、それは生活スタイルの違いなんだろうな。僕が美術やロックに興味がなければ好きだったのかもしれない。親から運転免許を取得するためにもらった金で楽器を買わなければ、ちゃんと車の免許を持っていれば矢沢を聞いていたのかもしれない。

矢沢と言えば夏…って意見は多い。僕も今ならそれに同意する。しかし、僕は海水浴場で矢沢を聞いた経験も野外コンサートに行った経験もない。けど夏は矢沢だと思うきっかけになった出来事がある。

大学を卒業した僕は、とりあえず就職して親を安心させようと思った。大学を卒業してリクルートの「就職情報」を買って就職先を決めた。人生の大事な選択を、そんな簡単に決めていいのか…と思うが、やっちまったものは仕方が無い。初めて就職したのは大月楽器というレコード店だった。就職情報を買った次の日に、大学の入学式で買ったスーツを着て面接に行って即採用された。

なぜ、レコード店だったのか…というと、大学時代にずっとバンドをしていて、卒業してからもチャンスがあればバンドでデビューしたかったからだ。なんというユルい人生設計。どうせ仕事なんて「生きるために金をもらう」ために我慢して行うものだと思っていた。だったら好きな音楽が聞けるような仕事に就こうと思った。

僕が配属されたのは、梅田の地下街の小さな店だった。当時の大月楽器は大阪に何件も店舗を持っており、クラシック専門、ジャズ専門、ロック専門…という具合にそれぞれが店の特徴を持っていた。僕が配属されたのは、店舗の規模も小さく扱う商品は、いわゆる「売れ線」だった。つまり邦楽のポップスが中心。当時の僕は、バンドをしていたこともあり、それもパンク系のバンドだったので、当時の歌謡曲は自分の趣味とは全く逆の方向であった。

毎日流れる歌謡曲にため息を漏らして仕事をしていた。加えて店員ということで、毎日立って仕事をしなくてはならない。毎日足がパンパンに腫れた。入社して1週間で仕事を辞めたいと思った。

春に就職して、梅雨にさしかかったころ夏のキャンペーンが始まった。当時覚えているのは佐野元春の「サムディ」とタイガース再結成、チャゲアス、大滝詠一のロングバケーション、松田聖子のパイナップルなんとかってやつ。その中に矢沢永吉もあった。僕より10歳上で、必要なコト以外あまり喋らない店長がこういった。「夏は矢沢だな」。

なんだか、その言葉が妙に刺さった。普段は自分の好みを喋らない店長が、自分の好きな世界を語ったような気がした。

「え?店長、矢沢好きなんですか?」と聞くと
「いや…別に」と言う。
「でも、夏は矢沢なんだよ。夏が来ると矢沢が聞きたくなるやろ?」


と聞かれた。僕は「はあ…そうっすね」と言ったが、夏と矢沢は結びつかなかった。というか、好きでも嫌いでもなかった矢沢永吉をはっきり「嫌い」と思うようになった。

夏のキャンペーンソングが店頭に流れはじめた頃、僕は大月楽器を辞めて、再び「就職情報」を買って、南森町にあるデザイン会社の面接を受けに行った。

嫌いな矢沢だったが、最近「サブウェイ特急」をiTMSで聞いて、かっこよかったので購入してしまった。どうやらこれはセルフカバーのバージョンのようだ。

ちなみに、今では「夏は矢沢だ」という言葉はなんとなく理解できる。
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